「美桜が死にたいって、生きていくのが怖いって泣きながら吐き出してくれた日、自分の能天気さを思い知った。こんなに苦しんでたのに、俺はなにも気づけなかった。……美桜は俺に伝えようとしてくれたのに、俺は美桜の話をちゃんと聞いてやらなかった」
蓮は濡れねずみになった私に傘を差し出してくれた。
世界を襲撃しているみたいな雨から、私を守ってくれた。
私と一緒に、雨に打たれてくれた。
「十年前……美桜は自殺だったって聞いたとき、美桜は弱かったんだって思った。だから、もしもまた会えたら、頑張らなくていいんだって、弱いままでいいんだって言わなきゃいけないと思ってた。だけど違ったんだ。美桜は弱くなんかなかった。変わりたいって、強くなりたいって言った。前に進もうともがいてた。必死に生きてた。……ただ巨大な迷路に迷い込んで、必死に出口を探し続けて、抜け出すよりも先に心が壊れただけだったんだ」
蓮の想いが痛いほど伝わってきて、涙が止まらなかった。
拭っても拭っても止まらなかった。
私も蓮も、顔をぐしゃぐしゃにして嗚咽を漏らしながら泣き続けた。
「頑張れって言うのは無責任だって、絶対に言うべきじゃないって思ってた。だけど同じくらい、頑張らなくていいって、弱いままでいいって言うのも無責任なんじゃないかと思った。そういう言葉が必要なときだってあるはずなのに、どうしても言えなかった。だって──」
「……そんなの、綺麗事だから」
蓮が顔を上げた。隠し事が見つかった幼い子供みたいに、弱々しい目をしていた。
いつだって蓮はストレートに言葉をぶつけてくれた。わからないことは「わからない」と正直に言っていたし、答えられないときは口をつぐむだけで、言い淀んだことはあまりなかった。
だけど一度だけ、やけに歯切れが悪かったときがある。
「人の脳は嫌な記憶が七割くらい占めてるって話してくれた日、蓮は本当はこう言いたかったんだよね。少しずつ免疫をつけていかないと、強くならないと、この世界では生きていけないんだって。私を追い詰めないために、言わないでくれたんだよね」
歯切れが悪かったのは、言葉を選んでくれていたからだ。
蓮は私を傷つける言葉を、追い詰める台詞を絶対に言わなかった。
「私は、強くないから」
蓮は嘘をつかない。