「だけど話してみたら、ほんとに俺のこと忘れてるんだって気づいた。忘れられてるならあんまり近づかない方がいいのかって思った。タイムカプセルの話をしたときも、遺書を書いた様子はなかったし。……美桜が言ってた通り、正直めちゃくちゃショックだったし。けど諦められなかった。思い出の場所に行けば思い出してくれるんじゃないかと思ったけど、どうしても屋上に行くのは怖かったからここに連れてきた。俺をこの世界に飛ばしてくれたこの場所なら、なにかが……また奇跡が起きるんじゃないかと思ったんだ」

 一緒に日直をしたあの日、蓮は意味がわからないタイミングで泣いていた。

 私が忘れていたことにショックを受けてたんだ。

 鳥居をくぐるときに一瞬立ち止まったのは、空を見上げてゆっくりとくぐったのは、奇跡を願っていたんだ。

「だけどなにも起こらなかった。だからもう美桜に会えただけで充分だって思おうとした。だって俺がいた世界には美桜はもういない。……もう二度と、絶対に、美桜には会えないから」

 蓮は眉根を寄せて、ぎゅっと目をつむった。

 溢れる涙を半透明の手で拭う。

「あの日……永倉にクラスのみんなでカラオケに行くって聞いて、様子だけ見るつもりで行ったんだ。美桜が楽しそうにしてたらもう関わらないつもりだった。けどなんかクソみたいなゲーム始まってるし……美桜が見てきた世界を知って愕然とした。勢いで部屋から出ちゃったけど、美桜が屋上にいるのが見えて、心臓が止まるかと思った。俺の考えがどれだけ甘かったか思い知った。気づいたら走ってた。美桜に触れたとき、ずっと強いと思ってた美桜の肩があまりにも細くて、頼りなくて、びっくりした。そのときに決めたんだ。もう絶対に美桜から離れないって。絶対に美桜を死なせたりしないって」

 あの日、もしも蓮が来てくれていなかったら。

 私は闇に身を投げていたかもしれない。

「中三の頃の話を聞いたとき、どうしようもなく悔しかった。なんで気づかなかったんだろうって。俺はずっと、バカみたいに、美桜の嘘を信じてた」

 蓮はあのとき、同情してくれたわけでも自分の辛い過去を思い出したわけでもなかったんだ。

 私のために泣いてくれてたんだ。