無数の点から、徐々に線が伸びていく。少しずつ、少しずつ、繋がっていく。

 季節外れの転校生。〝彼女〟が落とした〝ノート〟を拾った人。誰にも連の声が聞こえていないようだったあの日、蓮の後ろ姿を見ていた人。みんなが蓮の存在を忘れてしまったあとも、蓮のことを覚えていた人。さっき地震が来る前──蓮が教室に入ってくる前、私たちを教室から出そうとしていた人。

 全てに共通する人が、たったひとりだけいる。

 吹き出しの内容に目を奪われていた私は、やっと相手の名前を確認する。

 枠の上部にある名前は、

「……永倉くん」

 そうか。彼も未来から来たんだ。

 だから落ちていたノートが咲葵のものだと知っていたんだ。

 おかげで内容が流出することはなく、咲葵と私の仲も変わらなかったから私は親友を失わずに済んだ。だから今の私は遺書を書くまでには至らなかったのかもしれない。

 間接的だとしても、私は永倉くんにも助けられた。

 そういえば、一年の頃はわからないけど、咲葵から永倉くんと付き合ったと報告を受けたあと、彼は週明けから何日間か学校を休んでいた。それに咲葵たち小道具班に廊下で作業するよう促したのも彼だった。

「……ねえ、永倉くんは? 大丈夫なの?」

 今の咲葵は無事だ。心を病んだ原因がノートの件や私の自殺、そしてさっきの地震で大怪我を負ったことだとしたら、おそらく心を病んで長い闘病生活を強いられることもない。

 つまり永倉くんは、また運命を大きく変えたことになる。

 そういえば、地震が収まったあと姿を見ていない。

「大丈夫だと思う。さっき連絡きた。ただまたしばらく学校に行けそうにないって」

「そ、か。よかった……。でも、びっくりした。いや、びっくりしたなんてレベルじゃないけど……」

「俺もまさか永倉があの『ノウゼンカズラ』だったなんて思わなかったけど、永倉は急に現れた俺を見てぴんと来たみたい」

 ノウゼンカズラ。

 蓮はわからないみたいだけど、私は知っていた。前に咲葵から聞いたことがある。

 和名は凌霄花。

 向日葵と同じ、夏に咲く花。

「だけどこんなことばれるわけにいかないから、なるべく人前で話さないようにLINEだけで連絡とり合ってた」

 そのメッセージの中にさえ、私と咲葵の名前は一切なかった。万が一誰かにやりとりを見られたとき、私たちが巻き添えを食わないように名前を伏せてくれていたのかもしれない。