【俺だって死なせたくないよ。でもちょっと変えただけで腕が透けるくらいなんだ。これはたぶんある種の警告だよ。ただでさえ過去に戻っていいわけないのに、人の生死なんて変えたらどうなるかわかったもんじゃない】

【ちゃんとわかってる】

【助けたいって気持ちはわかるよ。けどたぶん、ここは別の世界なんかじゃなくて俺らがいた世界だ。つまり彼女は死ぬ運命なんだよ】

【それもわかってる】

【ほんとにわかってんのかよ……。そのまま消えるかもしれないぞ】

【俺はどうなってもいい】

 その一文に見覚えがあった。

 美容室にいたときに送られてきて、いくらなんでも大げさすぎると思った返信だ。時間的にもちょうど私とやりとりをしていた頃。

 言い方を間違えたんじゃなく、送る相手を間違えたんだ。

 微妙に噛み合っているといえば噛み合っていたから気づかなかった。

【本気で言ってんのか?】

【だったら自分は彼女のこと見捨てられんの】

【それは生死に関わることじゃ……わかったよ。どうなっても知らないからな。勝手にしろ】

 五月一日。

 その日は蓮は返信しておらず、相手から一方的に送られてきている。

【なんで学校来ないんだよ】

【大丈夫か?】

【だから言っただろ】

【お前は本当にバカだよ】

 最後のやりとりは今日──五月六日。

【彼女は学校来てるから安心しろ。ちゃんと生きてる。……お前はもうこのメッセージ見れないかもしれないけど】

 朝送られてきているそれに、蓮は地震が来る直前まで返信していなかった。

 そして今度は蓮が五月雨式にメッセージを送っていた。

【生きてたっぽい。まだ透けてるけど】

【過去が変わってるなら地震はないのかな】

【そんな都合のいいことないか】

【とりあえず今から学校に向かう】

【やばい、間に合うかわかんない】

【みんな教室から出して。もうやってる?】

【なんで既読つかないの】

【おい! なにやってんだよ!】

【お前もこの日のために来たんだろ! 彼女を助けるために!】

 蓮の話を聞いているときから、いくつかのキーワードが点となって頭の中に浮かんでいた。そしてメッセージを読み終えた今、静かだった心臓が激しく波打っていた。無意識にスマホを強く握り締めていた手は震え、こめかみに汗がつたっていた。

 何度か出てくる〝彼女〟はふたりいる。ひとりは私だ。

 じゃあ、もうひとりは? 蓮がずっとやりとりをしていた相手は?