「もっと驚くかと思ってた」

 そう言った蓮は、私よりも驚いていた。

 蓮の言う通り、自分でも意外なほど落ち着いていた。いや、最初こそ混乱したものの、蓮が唇を閉じる頃には落ち着いていた。

 ああ、そうか。そうだったんだ。

 蓮は未来から来たんだ。

 不思議なくらいにあっさりそう思えた。

「……信じられないよね。こんな話」

「ううん。信じるよ」

 蓮はさらに驚いて、不思議そうに眉尻を下げた。

「だって蓮は、嘘をつかないから」

 そう、蓮は嘘をつかない。それにこんな嘘をつく理由もない。

 実際に、私の頭が追いつかないことが起きていた。

 腑に落ちたこともたくさんある。私のことを昔から知っているようだったこと。蓮が私にくれたたくさんの言葉の意味。地震が来ることを知っていた理由。

 なにより、蓮は今こうして私の目の前にいる。

「ねえ、その神社って、もしかして」

「そう、桜峰神社。ここだった」

「……そっか。そうだったんだ」

 とはいえわからないこともいくつかある。私の認識が間違っていなければ、タイムリープは過去に戻るはず。

「だけど、中学のときって……私、蓮と付き合ってないよね?」

 私の記憶が正しければ、蓮と付き合ったことは一度もない。一緒に日直をした日まで話したことすらなかった。

 それ以前に、私の中学に『時生蓮』という名前の子はいなかった。つい一ヶ月前まで、蓮の存在は知らなかった。

 高一の頃、咲葵の「デスノート」が流出したという事件は起きていない。私たちは仲違いすることなく、ずっと一緒に過ごしていた。

 高一の修了式の日、確かにクラスでタイムカプセルを埋めた。だけど私は白紙のまま埋めた。遺書なんか書いていない。

 私がそう言うのをわかっていたかのように、蓮は半透明の手でポケットからスマホを取り出し、それを私に向けた。

 LINEのトーク画面が開かれている。

 そういえばLINEを交換したとき「連絡とる相手はひとりしかいない」と言っていた。逆を言えば、私の他にもひとりだけいるということだ。

「俺が説明するより、これ見た方がわかりやすいと思う」

「え、でも……」

「俺、説明下手だから」

 そんなことないよとは言えなかった。

 戸惑いながらそれを受け取る。

「……見て、いいの?」

 蓮が小さく頷いた。

 メッセージは四月十四日から始まっていた。