高校生の男の子が誰かに涙を見られたことが恥ずかしいのは当たり前だと納得して、その作戦に乗ることにした。

「だって友達だし。具合悪いなら日直くらい代わってあげないと」
「ほんとに友達なの?」

 心臓が圧迫されたみたいになって、呼吸が数秒間止まった。
 全く予想していなかった質問に動揺して、いつもみたいにさらりと嘘が出てこなかった。
 時生は純粋に疑問を口にして純粋に答えを求めているように見える。他意は感じられなかった。

「なに……言ってるの?」

 ──毎日一緒にいるんだから当たり前じゃん。バカなこと言わないでよ。怒るよ。

 そう返せばいい。いつも通り、思ってもないことを平然と口にすればいい。私の数少ない特技のはずだ。自分に嘘をつくなんて容易いはずだ。
 なのに、どうしてだろう。どうしていつもみたいに言えないんだろう。どうしてこんな考えが浮かんでくるんだろう。

 ──本当の友達、ってなに? そもそも〝友達〟ってなんだっけ?

「なんで……そんなこと訊くの?」
「なんとなく」
「……なにそれ。変なこと言わないでよ」
「ごめん」

 動揺していた。これ以上話していたらついぼろが出そうで、また黙ってしまった。

 気まずさは増す一方だった。一刻も早く解放されたくて、最後の集中力を使い果たして日誌を書き終えた。
 提出は時生に託して帰ろう──と思ったのに、最後の最後で投げ出すみたいで嫌だと思った私は、結局一緒に職員室までついて行った。こういうところが真面目だと揶揄される所以かもしれない。
 職員室を出て帰ろうとしたとき、

「ちょっとついてきて」
「え? どこに?」
「えっと……いいからついてきて」
「は?」

 答えになってないし、突拍子がなさすぎるし、全くもって理解不能だ。
 さっさと歩き出してしまった時生を慌てて追った。というか、困惑しているせいでつられてしまった。