もう流れ作業じゃなかった。いつの間にか、画面に吸い寄せられているみたいに夢中になって読んでいた。
圧倒的な共感。それは生まれて初めて抱く感情だった。
〈011:ノウゼンカズラ@HOME 20XX/08/31(X) 23:08
めちゃくちゃショックだった。正直泣いた。罪悪感だけじゃない。強烈な後悔と、どうしようもないほどの未練だった。
信じられるか?
会えなくなってから十年近くも経ってるのに、俺はまだ彼女のことを忘れてなかったんだ。
ある記事を見つけたのは、情けないくらい途方に暮れながらなんとなくいろんなサイトを巡ってたときだった。
簡潔にまとめると、ある地域にタイムリープができると言われている小さな神社がある。戻りたい日にちの零時ぴったりに、その神社の鳥居をくぐるだけ。ただし戻れんのはぴったり十年。
その記事には神社の名前と住所も書いてあった。
びっくりしたよ。中学生の頃、彼女と何度も行ってた場所だったから。
こんなのいても立ってもいられないに決まってるだろ。奇跡としか思えなかった。
俺はどうしようもなくバカだった。十年間も消えてくれないこの後悔は、紛れもなく自分が蒔いた種だ。全部自分が悪い。
それでも、俺はもう一度彼女に会いたい。あの向日葵みたいな笑顔をもう一度見たい。彼女から奪ってしまった笑顔を、取り戻したい。
長々と自分語りして悪い。先に気持ちの整理をしたかったのかもしれない。
というわけで、ちょっとタイムリープしてくる。〉
記事の最後には、神社の名前と住所が書いてあった。
頭に靄がかかっているような、逆に活性化しているような、奇妙な感覚だった。
考えるよりも先に勝手に身体が動いていた。
自分の身体じゃないみたいだった。幽体離脱でもしているみたいな、まるで真上から俯瞰しているような感覚だった。
バカげている。朦朧としている意識の中でも自覚はあった。
なのに足が止まらなかった。
──もう一度、美桜に会えるかもしれない。
それだけが頭の中で呪文のようにリフレインしていた。
正気なんて、十年前に失っていた。
スマホを握り締めて、まるでなにかに憑りつかれたみたいにそこに向かっていた。
もう一度会えたとき、美桜の中から俺の存在が消えてしまっているなんて、夢にも思わずに。