ただでさえ壊れていた世界が粉々に砕け散っていた。

 もう全てがどうでもよかった。

 ──いっそのこと、美桜の元へ行ってしまおうか。

 もともとうんざりしてたんだ。

 しがらみだらけの人間関係も、上司からの理不尽な要求や圧力も、なにもかも。学校生活で勉強以外のことを一切学んでこなかった俺にとって、社会はまるで監獄みたいだった。

 このまま生きていたって、世界はなにも変わらない。

 美桜は怒るだろうか。拒絶されるだろうか。

 それとも、笑って受け入れてくれるだろうか。

 そんなことばかり考えながら、会社にも行かず引きこもり、しかしのうのうと生きていた。

 俺は結局、死ぬ度胸なんてなかった。

 なにもすることがなく、なにをしたらいいのかもわからなくなった俺がネットの世界に逃げたのは必然と言ってもいいのかもしれない。だって外で遊ぶのはとてつもなく苦手だし、連絡を取るような友達なんていなかったのだから。

 廃人同然になっていた俺がとある記事にたどり着いたのは、四月の始めだった。

〈ちょっとタイムリープしてくる〉

 似たようなタイトルのスレッドはいくらでもあった。内容もほとんど変わりなかった。

 ──タイムリープ。

 その単語を知らなかったわけじゃない。おそらく今まで何度か耳にしてきたはずだった。気にしたことはなかった。そんなおとぎ話に興味もなかった。

 だけど今の俺は、その単語を目にする度に、読まずにはいられなくなっていた。

 読み漁っているうちに、タイムリープする方法がいくつかあることを知った。実際に未来から来たという人もいた。

 信じていたわけじゃない。過去に戻ることなどできるはずがない、ありえないと、頭の片隅ではちゃんとわかっていた。気が済むまで調べるだけ調べるつもりだったのだと思う。

 過去に戻る方法が存在する。

 そう思うだけで現実逃避ができた。記事を読んでいるときだけは心が軽くなったし、救われている気がした。つまるところ、単なる気休めだった。

 今目の前に表示されているスレッドは、半年以上前に投稿されたものだった。無数のスレッドに追いやられて、閲覧数は少ないようだった。

 なんの気なしにそれをタップする。

 そのごく小さなたったひとつの選択で、永遠に変わらないと思っていた世界が一変するなんて、もちろん想像していなかった。