──美桜、は。
美桜は、自殺する一ヶ月も前から──もしかすると、もっとずっと前から──死を決断していた。
友達と笑い合っていたときも、俺と過ごしていたときも、俺に別れを告げたときも。
ずっと〝死〟が頭を占領していたというのか。
とても信じられなかった。
だって美桜のことを考えたときに真っ先に思い出すのは、友達に囲まれて笑っている姿だから。
美桜はちょっとドジなところがあるから。美桜自身がそう言っていたから。きっと誤って転落してしまっただけだ。美桜が自殺なんかするはずない。
この十年間、ずっとそう思っていた。
じゃあ、なぜ。
なぜ自分で電話をしてまで学校を休んでいたのか。
なぜ廃ビルの屋上なんかにいたのか。
なぜ転落してしまうような場所に立っていたのか。
──本当は、わかっていた。
美桜が自殺したという事実を、俺が受け入れられなかっただけだ。
美桜は優しい。家族を、立花を置いていくはずがない。
美桜は強い。自殺なんかするような弱い人間じゃない。
そう言い聞かせることで、なんとか精神を保っていただけだ。
美桜の苦しみに気づけなかった、SOSを見逃し続けていたという罪の意識を軽減させたかっただけだ。
美桜はいつも笑っていた。笑っていると思っていた。だけどそれは本当に、俺が大好きだった、心からの笑顔だったのだろうか。
周囲の人に心配をかけたくない一心で、笑うことしかできなかったのではないだろうか。
今この瞬間まで、そんなことにすら気づけなかった。
美桜が俺に何も言えなかったのは当然だった。
俺はあまりにも無知で能天気だった。
美桜を追い詰めたのは、俺でもあった。
──美桜。美桜。美桜。
ごめん、美桜。気づけなくてごめん。バカでごめん。
会いたい。どうしようもなく、美桜に会いたい。
もう一度美桜に会えるのなら、他になにもいらない。
──どうして。どうして。どうして。
届くことのない問いかけを、一度も言えなかった「ごめん」を、何度も何度も──もう答えが返ってくることなどないとわかっているのに──無空間に投げ続けた。