〈時生へ
あなたがこの手紙を読んでくれているということは、私はもうこの世にいないでしょう。
……ごめん、冗談。いや、ほんとなんだけど、書いてみたかっただけ。
ていうか、なにから書けばいいのかわかんないだけ。
万が一生きてたら、そのときはひとりでタイムカプセル掘り起こして燃やしちゃおうかな。遺書を書いてたなんて黒歴史になっちゃうもんね。
十年かあ。十年後の時生なんて想像つかないな。コンタクトになってたりするのかな。でも時生は泣き虫だから、すぐコンタクト外れちゃうかもね。
……うん。どうでもいいね。
なんだろうね。なにを書けばいいんだろうね。
書きたいことなんていくらでも出てくる気がするし、たったひとつしかない気もするよ。意味わかんないよね。
ありがとうって言いたいことは書いたらきりがないから、とりあえず謝っとこうかな。
名前、一度も呼べなくてごめんね。どうしても恥ずかしくて。だって私、男の子を名前で呼んだことなかったんだよ。
蓮。呼べていたら、蓮は笑ってくれたかな。
あのね、蓮。
これも一度も言ったことなかったけど。今さらすぎるってわかってるんだけど。
蓮が好きだよ。本当は、すごくすごく、大好きだったよ。
私のことなんかとっくに忘れて、幸せになってくれてるといいな。
だったら手紙なんか書くなって感じだよね。ごめんね。
だけど蓮には散々困らせられたから、最後くらい許してね。
バイバイ、蓮。〉