〈時生くんへ
お久しぶりです。中学と高校で一緒だった立花咲葵です。あんまり話したことはなかったけど、覚えてくれてるかな。
突然お手紙を送ってしまって、さぞ驚かれていると思います。高校時代の担任の先生に事情を説明して実家の住所を教えてもらい、実家を訪ねて、お母さんに今の住所を教えていただきました。勝手なことをしてごめんなさい。
とはいえ、手紙を書こうと決めた今も、なにから書けばいいのかわかりません。支離滅裂な文章になってしまったらごめんなさい。
まず最初に、ひとつだけ確認させてください。
毎年美桜のお墓参りに行っているのですが、いつも桜の木の枝が一本だけ置いてあるんです。誰も覚えがないと言うし、ずっと気になっていました。
もしかして、あれは時生くんではないですか?
違ったらごめんなさい。
もしもそうだったとしたら、時生くんに伝えなければいけないことがあります。
順を追ってお話させてください。
美桜が亡くなった当時、警察の捜査で「遺書はなかった」とされていましたが、実は二ヶ月前に見つかりました。遺書と呼べるものではないかもしれない……いえ、当時警察が見つけていたら「遺書」と判断されていたかもしれませんが、単にわたしがそう呼びたくありません。
時生くんは覚えていますか?
高一の修了式の日に「十年後の自分へ」というお題で手紙を書き、タイムカプセルに埋めるという授業がありましたよね。
そして先日行われた同窓会でタイムカプセルを掘り起こしたらしく、先生が、同窓会に参加できなかったわたしの手紙を送ってくださいました。その中には、なぜか美桜の手紙も同封されていました。
美桜の手紙は「十年後の自分」宛ではありませんでした。
お母さんとわたし、そして時生くんへの手紙でした。
本音を土に埋めちゃうなんて、最後の最後まで美桜らしいですね。
それを見たときに思い出したんです。美桜の訃報を聞いたあの日、時生くんがわたしと同じくらい、もしかしたらそれ以上に茫然自失としていたことを。そしてあのとき、わたしの聞き間違いでなければ「美桜」と呼んでいたことを。もしかしたら、時生くんと美桜はなにか特別な間柄だったのではないかと思いました。
今さら気づくなんて遅すぎますよね。ただ、あの日はとにかく混乱していたせいで記憶が曖昧だったのです。
手紙を見つけてから二ヶ月間、ずっとずっと考えていました。時生くんに渡すべきか、十年も経った今渡していいのか、混乱させてしまうのではないかと。
だけど、こうも思いました。
美桜はこの手紙を、他の誰にも、警察にさえも読まれたくなかったのではないかと。誰の手を介すことなく、わたしたちに直接届くよう隠してくれたのではないかと。お母さんと時生くんの手にもしっかりと届くように、わたしに託してくれたのではないかと。
ご都合主義だと思われるかもしれません。
それでも、わたしはそう信じたいです。
中身はもちろん見ていません。
この手紙が迷惑だったら捨ててもらって構いません。
でも、ごめんなさい。
どうか時生くんが読んでくれることを願っています。〉