美桜は自殺だった。

 奇跡的に顔だけは傷ひとつなかったが、身体は見るに無残だったそうだ。

 美桜は──十階建ての廃ビルの屋上から飛び降りた。

 本当に自殺なのか、真相はわからない。警察によって最終的にそう結論づけられただけだ。

 なぜそう結論づけられたのかは知らない。聞きたくもなかった。

 だって、所詮は赤の他人が状況を見てそう判断を下しただけに過ぎない。

 遺書はなかった。真実を知っているのは美桜だけだった。

 だけど美桜はもうこの世にいない。

 美桜の口から聞くことは叶わない。

 天国の存在を信じられるほど、もう子供じゃなかった。

 いつかまた会おうと笑って言えるほど、まだ大人じゃなかった。

 なにもわからなかった。

 今自分がなにを思っているのかさえも。

 もうなにも聞きたくなかった。

 気が狂いそうだった。

 体を引き裂くような痛みが全身を駆け抜けた。



「────────」



 俺は美桜に、最後になんて言った?

 美桜は俺に、最後になんて言った?

 最後に会った日、美桜はどんな顔をしていた?

 俺は美桜に、どんな顔を向けていた?

 思い出せなかった。覚えていなかった。

 美桜が学校に来なくなってから、俺はなにをしていた?

 寂しくなかった。悲しくなかった。

 同じクラスなのだから、いつでも会える。

 好きだなんて、やり直したいだなんて、いつでも言える。

 疑いもなくそう思い込んでいた。

 俺は、どうしようもなく、愚かだった。

 ──もう二度と、美桜に会えない。

 その現実を叩きつけられたとき、今までで一番、どうしようもなく、美桜に会いたかった。

 会えるときには、会いに行こうともしなかったくせに。