長くも短くもない、ちょっと癖のあるぼさぼさの黒髪。太くも細くもない自然体の眉。高くも低くもない鼻。厚くも薄くもない唇。黒縁眼鏡の奥にある、大きくも小さくもない、吊っても垂れてもいない奥二重の目。
 眼鏡を外したら意外とイケメン、なんてこともなさそう。私も人のことをとやかく言える外見じゃないけど。

 じっと見すぎたのか、時生が急に顔を上げた。

「……は?」

 時生の目は、真っ赤に充血してうるうるしていた。

「──な、なんで泣いてるの⁉」
「泣いてない」

 時生は唇を真一文字に結んで、ずずっと洟を啜って、眼鏡を外して、学ランの袖で目をこすった。

「な、泣いてるよね? 目真っ赤……」
「泣いてない」

 意外と頑固だ。
 眼鏡を戻して天井を仰ぎ、眉間から鼻にかけてしわを刻んで、必死に涙を堪えている。

「き、傷ついた?」
「傷ついてない」
「お……男の子が泣いてるとこ初めて見たかも……」
「男じゃな……いてない」

 その軌道修正はちょっと無理があると思う。

「あの……言い過ぎたよね。ごめん……」
「泣いてない」

 めちゃくちゃ頑固だ。子供みたい。
 私が言い過ぎたせいだろうか。それとも本当は蘭音たちの言動に傷ついていたのだろうか。
 時生が反応を示さないのは、他人にどう思われようが関係ない、我が道を行くっていうタイプだから──。

 本当に?
 どこからともなく疑問が浮かんだ。

 あれだけ敵意を剥き出しにされたら誰だって(しかもこんな見るからに気弱そうな男の子なら余計に)傷つくに決まっている。
 時生は気にしていない。そう自分に言い聞かせることで、罪悪感を極限まで減らそうとしていただけなんじゃないだろうか。

 気にしていないから反応しないではなく、気にしているから反応できないという可能性だってあった。私自身その気持ちを知っているのに、考えないようにしていた。
 だって私は、どれだけ同情していても、時生が内心傷ついていたとしてもなにもできない。時生を庇うことも、蘭音を制することも。
 それどころか、万が一言い返したとしたら──時生に非はないとわかっていながらも──私は当然のように蘭音側につくのだろう。

「日直押し付けられて嫌じゃないの」

 今度は時差じゃなく、泣いていたくだりを強制終了させたいらしい。無理やりだけど。