なぜあんなに怒ったのか、ちゃんと考えなかった。
「美桜、連休に入る前からずっと学校に行ってなかったんだね。学校には自分で連絡してたみたい。さっき先生から聞くまで全然気づかなかった。……だめな母親だよね」
美桜は家にいるのだと思っていた。なんの疑いもなく、そう思い込んでいた。
美桜がなぜ学校に来ないのか、どこでなにを思っているのか、考えようともしなかった。
「美桜の髪がこんなに伸びてたことも気づかなかった。最近の美桜がどんな服を好んで着てたのかも知らなかった。……最後に美桜に『いってらっしゃい』って言ったのがいつだったかさえ、なんにも覚えてないの。……子供の頃に『挨拶しなさい』って教え込んだのは自分なのに」
あんなに美桜の笑顔が好きだったのに。大好きだったのに。
今目の前に、美桜がいるのに。
フォーカスがかかったみたいに、うまく思い出せない。
「美桜って、なにも言わないでしょう。いつもにこにこしてて、しっかりしてて……。わたしがなにを言っても、絶対に言い返してこなかった。だから、そんな美桜に甘えてたのかもしれない。母親はこっちなのに、おかしな話だよね」
俺の記憶にある美桜は、いつだって笑っていた。
美桜は強かった。いつも背筋を伸ばして毅然としていた。
だから美桜は、なにがあっても大丈夫だと思っていた。
「〝美桜〟って名前ね、わたしがつけたの。美桜が産まれた日、病室から見える桜が満開で……綺麗だって、なんて綺麗な世界なんだろうって、美桜にもこの綺麗な世界で楽しく幸せに過ごさせてあげたいって、思ったのに……」
──本当に?
自分の理想を押し付けて、ちゃんと美桜のことを見ていなかっただけなのではないか。
美桜が俺に悩みを打ち明けようとしたとき、どうせたいしたことじゃないと決めつけていなかったか。
美桜が初めて怒ったとき、面倒だと思っていなかったか。
「──そんな大切なこと、どうしてずっと忘れてたんだろう」