それはこの場にいる全員が同じなのだろう。

 立花の目の枠に溜まっていた涙が限界を迎え、ひとつこぼれた。ふたつ、みっつと、頬に大粒の雫を落としていく。

「……葬儀については、家族葬にするらしいので参列できない。ただご両親のご厚意で、明日だけ葬儀場で眠ってる逢坂に会わせてもらえるそうだ」

 ソウギ。

 その単語を理解できずに放心していたとき、まるで地中で爆発が起こったみたいな衝撃が突き上げた。

 全員が咄嗟に身を伏せ、数人が小さく悲鳴を上げた。二秒ほどの余韻ののち、大きな振動になっていく。

 教室には騒音が響いていた。

 積み上げていた机や椅子が崩れる音。壁に立てかけていた大道具が倒れる音、窓ガラスが割れる音。破片が床に叩きつけられた音。そして、クラスメイトたちの悲鳴。

 それはおそらく十秒かそこらだったが、全員がパニックに陥っていた。

 揺れが収まったことを確認し、かがんだまま教室を見渡す。

 つい十秒前からは想像できなかったほどの惨劇がそこにあった。

 数人が机や大道具の下敷きになり、また数人には割れたガラスの破片が体に刺さっていた。

 このたった五分程度の間に、一体なにが起こったのだろう。一体なにが起こっているというのだろう。

 まるで一瞬にして世界が反転したみたいだった。

 放心したまま立ち上がり、痛みよりもやや早く違和感に気づく。左腕にぬるぬるとした不快な感触があった。

 身体に力が入らなかった。やけに頭がぼんやりしていた。違和感がある方へゆっくり目をやれば、割れたガラスの破片が腕に刺さり、どくどくと脈打つ度に傷口から血液が溢れ、床に血溜まりができていた。

 運悪く俺の席は窓側だった。ぼうっと外を眺めていられるので気に入っていたが、このときばかりは不運としか言いようがなかった。さらに学ランを脱ぎ、シャツの袖をまくっていた。

「咲葵!」

 誰かが叫んだ。

 緩慢な動作で振り向くと、しゃがみ込んでいる立花が両手で顔を覆っていた。

 両手の隙間から大きなガラスの破片が見え、血液がぼたぼたとこぼれていた。

「咲葵! 大丈夫⁉」

「動いちゃだめだ! 誰か救急車を──」

「え⁉ 時生も腕やばくない⁉」

「大丈夫⁉ 救急車二台呼んで‼ いや、もっとたくさん‼」

 血と一緒に身体中から何もかもがこぼれ落ちてしまったみたいに空っぽだった。

「え、時生⁉ どこ行くの⁉ ねえ──」

 返事もせずに、教室をあとにした。