もうすぐGWに入ろうというときから、美桜は突然学校に来なくなった。連休中も、連休が終わっても来なかった。

 そして昨日──五月六日、美桜の誕生日。

「ねえ! やばいよ! 美桜死んだって!」

 学校祭の準備に明け暮れていた放課後、クラスメイトの女子が叫んだ。

 瞬く間に教室が騒然となっていく。

「美桜って……は? うちのクラスの? 逢坂美桜?」

「そう! 今職員室に行ったら先生たちが話してて、ちょっと聞こえたんだけど」

「は? なんで?」

「そこまで聞こえなかったけど……てかみんな動揺してて訊ける雰囲気じゃないし。とにかく、美桜のお母さんからさっき連絡きたみたい」

 教室には異様な雰囲気が漂っていた。

 混乱、当惑、悲愴、そして畏怖。

 意味がわからなかった。思わず手を止めて椅子から立ち上がった。

 狼狽しているクラスメイトたちの言葉が鼓膜に届いても、まるで低性能な機械が暗号を読み上げたかのように変換された。

 ミオガシンダ

 アイサカミオガシンダ──

「……なんで?」

 呟いてしまったが、次の言葉が出てこなかった。続きを口にしたくなくて、理解したくなくて、本能が制御したのかもしれなかった。

 みんなが一斉に俺を見て面食らっていた。無意識にすぐそこにいた女子の肩を掴んでいたことに気づく。

「時生くん?」

 振り向いたのは、目の枠に留められる限界まで水分を溜め、痛々しいほど目を赤に染めた女子だった。

 美桜の親友だった、立花咲葵。

「……みお、が、なん、で」

 喉がからからで、ひどくかすれた声しか出なかった。

 立花の表情に困惑の色が滲む。

 同じ中学出身とはいえほとんど話したことはない。なにより、俺が美桜の訃報に自失するほどのショックを受けていることも、美桜を名前で呼んだことも、とても理解できないと言いたげだった。

 誰かが言葉を発するよりもやや早く、担任が悲痛な面持ちで教室に踏み入る。

 動揺している生徒たちを見て状況を把握したのか、教壇に手をついた担任は長く息を吐いてから俺たちに告げた。

「昨日、逢坂が亡くなった」

 言ってしまえば、一生徒の発言など単なる噂話に過ぎなかった。信じられない、信じたくないという気持ちが疑心をより強めたことは否めないが、「ちょっと聞こえたんだけど」ほど信憑性のないフレーズはそうそうない。

 だけど、担任の口から発せられた言葉によって事実なのだと認めざるを得なくなった。