解除不可能な時限爆弾のスイッチを入れた時生が颯爽と教室から去ったあと、五秒と経たずに大爆発が起こったのだった。
クラス一丸となって、憤怒する蘭音を必死に宥めた私たち。あのときばかりは体育祭や学校祭以上に団結していたと思う。
蘭音と知り合ったのは高校に入ってからだから、付き合いは一年ほどになる。
彼女は容姿にも家柄にも恵まれ、幼い頃からちやほやされてきた子だ。これは単なる私の憶測ではなく、この一年で聞かされてきた自慢話をもとに推測したこと。そんな蘭音のプライドが、クラス一の陰キャによってずたぼろにされたわけだ。
あれは誰がどう見ても蘭音が悪かった。だけど蘭音の辞書に『自業自得』という文字はない。よって反省することもない。
時生を庇う人はほぼいなかった。理由はひとつ、時生が『ぼっちの陰キャ』だから。
世の中そんなもの。私はそれを嫌というほど知っていた。
この教室は──私たちの世界は、どれだけ高性能な空気清浄機だろうと浄化しきれないほどに、ひどく淀んでいる。
「ごめん。でもほんとに興味ないから」
「だとしても、言い方ってもんがあるでしょ」
「ごめん」
「別に……私に謝ることじゃないけど」
「そっか。ごめん」
なんかすごい謝ってくる。
ちょっといたたまれなくなって、つい口をつぐんだ。
時生は悪くなかったはずなのに、どうして責めるようなことしてるんだろう。
ちらりと時生を見ると、微動だにしないまま日誌を覗いていた。まるでお地蔵さんみたいに。もしや呼吸すら忘れているのではと心配になるくらいに。
気にしてない……のかな。
今度はため息ではなく、安堵の息を吐いた。
そういえば、時生をこんなに間近で見るのは初めてだ。
思っていたより顔立ちが整っている──なんてことはなく、遠目に見ているときと印象はほとんど変わらなかった。
普通。それ以外に形容しがたい。「私の彼氏なの」と写真を見せられたら「優しそうだね」としか返せない感じ。
身長はたぶん平均以上あるけど、体系は細い。細身とかスレンダーとかいうより、率直に言えばひょろっとしている。一回は「もやし」か「ごぼう」ってあだ名つけられたことがありそう。