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無事に同じ高校に進学できたが、またしてもクラスが離れてしまった。
高校に入ってすぐに彼女がいることが母さんにばれて、家に連れて来いと言われて紹介した。それからは俺の部屋にいることが増えていた。
美桜は、昔みたいに友達に囲まれて笑っている美桜に戻っていた。
ただし、それによってひとつだけ大きな不満が生まれていた。
「ごめん。明日クラスの子たちと遊ぶことになった」
夏に差しかかろうとしている頃、美桜が言った。
「俺と約束してたじゃん」
「ごめんってば。でも断れないし……」
最近こういうのが多くなった。高校に入学してからというもの、一緒に過ごすことは数える程度すらなくなっている。
「ごめんって、そればっかじゃん」
付き合って二年も経てば、それなりに喧嘩もするようになった。それなりに不満を口にするようにもなった。
そして少しずつ、思いやりという言葉を忘れていった。
「ねえ……なんで泣くの……」
ショックすぎて我慢できなかった。今日だけじゃないけど。
美桜に関してだけ泣き虫という点だけは変わっていなかった。
「ごめんね。泣かないで」
「えぐ」
「ずっと思ってたけど、時生って子供みたいな泣き方するよね」
「ぐふ」
「……ふ。うん、わかった。明日はなるべく早く抜けるから、一緒に過ごそう」
ちょっと笑われたような気もするが、俺が泣けば美桜はこうしてすぐに謝ってくる。
断じてそれを狙って噓泣きしているわけではない。だけどそうしてくれなければ仲直りできないのは事実だった。
「なんでそんなすぐ謝れるの」
「時生は絶対に自分から謝らないよね」
図星だった。俺から謝ったことは一度たりともない。
ごめんのひと言を口にするのが、どうしても恥ずかしかった。
「だって気まずいままなの嫌じゃん。それに時生はすーぐ泣くし。ずっと思ってたけど、そんなにすぐ泣いちゃだめだよ。男の子なんだから」
ちょっとした嫌味を言われ、実は怒っているのかとドキッとしたが、美桜の表情も声色もまるで幼い子供を諭すようなそれだった。
「ていうのは冗談で。喧嘩って言い合いしてるうちにだんだんヒートアップして、お互いを傷つけ合っちゃうでしょ? そういうの嫌なの。だったら早く謝って仲直りしたい」
美桜の優しい考え方が好きだった。俺には到底持てない価値観だったから。
ただし俺は、美桜の優しさに甘えるばかりで、優しさを返すという発想がなかった。