「付き合ってるってばれたら恥ずかしいから、あんまり学校で一緒にいるとかはしたくないかも」
付き合って(泣き落として)すぐに美桜がそう言った。
その気持ちはわからなくもない。中学生にとってカップルは冷やかす対象でしかない。
付き合えたことは拡声器を手に自慢しまくりたいくらいだったが、俺も無駄に絡まれたくはない。
「わかった。じゃあ放課後は一緒にいたい」
とはいっても、中学生が時間を潰せる場所など限られている。
近所の公園なんて誰かに見られる可能性しかないし、ゲーセンやカラオケといった場所はとてつもなく苦手だし、美桜の家に行く度胸もなければ(入れてくれるかはわからないが)俺の家に呼ぶ勇気もない。
結局俺たちが選んだのは、学校の屋上だった。放課後にわざわざ屋上に行く生徒はあまりいない。
金網フェンスの向こうにある景色を見ながら、陽が沈むまで他愛のない話をする。たったそれだけだった。だけど俺にとっては夢みたいな時間だった。なにものにも代えがたい、かけがえのないひとときだった。
不思議と、美桜とは普通に話せた。たぶん親よりもまともに話せた。恋ってすごい、とか思っていたが、それは単に美桜が笑顔を絶やさずいろんな話を振ってくれていたからだった。
LINEを交換した。俺はアプリを持っていなかったので急いでダウンロードした。美桜はうさぎのスタンプがお気に入りだった。だからそれもダウンロードした。
始まり方が始まり方だったから、もしかしたらすぐに振られるのではないかと思っていたが、意外にも付き合いは順調だった。
学校では必要最低限しか話さないが、家に帰ればLINEで連絡をとり合い、美桜の予定がない日は屋上で過ごした。美桜は友達とばかり遊んでいたし家に幼い子供がいるからなかなか多忙で、ゆっくり話せるのは月に一回程度だったが、それでも充分だった。
「なんで私のこと好きになってくれたの?」
ある日、美桜が言った。
「……わかんない。けどすんごい好き。めちゃくちゃ幸せ」
美桜は目をぱちくりさせて、次第に照れくさそうに笑った。
今はわかる。なぜあんなにも惹かれてしまったのか。
美桜は世界でたったひとり、俺を見つけてくれたからだ。
そしていつからか、心の拠りどころになっていた。