朝も授業中も放課後も、ずっと美桜に目を奪われていた。目だけではなく、なるべくばれないよう美桜のあとを追い続けた。
それが功を奏したのか、同じクラスになって一ヶ月が過ぎたある日の放課後、裏庭に呼び出された。
うきうきしながら向かうと、
「あのさ。私のあとつけてるよね?」
思いっきりばれていた。おまけに少し怒っていた。
これはまずい。怒らせるつもりはなかったのに。
「つけてない」
「つけてるよね」
「つけてない」
「あのね。じっと見てきたり後ろから追ってきたりするのは、つけてるってことになるんだよ」
「……だって好きだから」
我ながら意味不明な言い訳だった。もちろん美桜は深い深いため息をついた。
もしかして迷惑なのだろうか。ちょっとショックを受けた。
「私ちゃんと断ってるよね」
「でも好きだから」
「その気持ちは嬉し……かったよ。最初は」
え? 今は?
「でも、時生くんとは付き合えないって何回も言ったよね」
「でも好きだから」
なんかもう開き直ってきた。
「なんで付き合えないの」
「えっ?」
「彼氏がいるの」
「いないけど……」
「好きな奴がいるの」
「い、いないけど……」
「じゃあ諦めない」
もはや完全に意固地になっていた。自覚はあった。
「私の気持ちは無視なわけね」
「そういうわけじゃないけど」
じゃあどういうわけなんだよ、という顔をした。俺自身も思っていた。
「ほんとに申し訳ないんだけど、諦めてくれないかな」
「どうしたら諦められるんだろう」
「私が知るわけないよね」
美桜はもう心底呆れていた。
ショックだった。この世の終わりくらいにショックだった。
本当に迷惑なんだ。振り向いてもらえないんだ。
どうしてだめなんだろう。こんなに好きなのに。
「──な、なんで泣いてるの⁉」
「だって……」
ずっと堪えていたが、もう限界だった。なんなら初めて振られたときからずっと我慢していた。
断っておくが、俺は決して涙もろい方じゃない。まがりなりにも男なのだから、人前でぼろぼろ泣くのが恥ずかしいことだとはわかっている。
なのにだめだった。美桜に振り向いてもらえないことだけは、どうしても耐えられなかった。
「き、傷ついた?」
そりゃ傷つくよ、という意味を込めて堂々と五回くらい連続で頷いた。
しばしの沈黙が落ちる。
俺は顔をあげなかった。というかあげられなかった。人生最大のショックに、涙が止まってくれなかった。
「わ、わかった。泣かないで。わかったから」
「えっ」
「……つ……き、あ、おう、か」
ものすごいカタコトで半ばやけくそに答えた美桜は疲労困憊していた。
気持ちが通じ合ったわけではなく、美桜が根負けしただけ。というか完全なる泣き落としである。
それでも嬉しかった。奇跡が起きたと、懲りずに思った。