「付き合ってください」
人生初の告白をしたのは、美桜と二回目に話したときだった。ちなみに理不尽に絡まれた事件からたったの一週間後である。礼儀として名前は調べていた。
昼休みの廊下ですれ違った美桜は、まるで友達みたいに話しかけてくれた。
今だ、と思った。だからそのまま(一応周囲に誰もいないことを確認してから)言葉にした。
「……え? なに言ってるの?」
「好きです。付き合ってください」
人間と喋るのはとてつもなく苦手だった。
幼い頃から極度の人見知りで、最低限の人間関係すら育んでこなかった。学校にいる間はひと言も喋らない日だってざらにあった。
つまるところ、俺は〝人との距離感〟というものの知識が皆無だった。
おまけに恋愛など生涯無縁だと思っていたせいで、順序というものを知らなかった。
「え、あの……ごめんなさい」
当然の反応である。
だけど諦めなかった。話しかけてくれたからなのか「好き」と口に出してしまったからなのか、なぜかもっと好きになってしまった。
だからひたすら美桜の姿を目で追い続けた。
たまに廊下で目が合うと、最初はにこっと微笑んでくれた。途中からその笑顔がぎこちなくなり、次第に不審そうに目を逸らされるようになり、最終的にはびくっと跳ねて若干怯えた表情でそそくさと去ってしまうようになった。
ちなみにその間も何度も告白した。たぶん最低でも月に一回は。もちろん振られ続けた。
そんなことを半年ほど繰り返し、二年にあがると同じクラスになれた。奇跡だと思った(のちに美桜に言ったら苦笑いしていた)。
いつも友達に囲まれて笑っている姿を、背筋を伸ばしてしゃんとしている姿を、委員長としてクラスをまとめている姿を、誰かの過ちを正そうとする強い姿を、ずっと見ていた。
俺にないものをたくさん持っている美桜に、どんどん惹かれていった。
だからまた告白した。親交は一切深まっていないのに、告白した。たぶん最低でも週に一回は。
だって同じクラスになったのだから、必然的にチャンスが増えたのだ。
「好きです。付き合ってください」
「あの……ごめんなさい。ほんとに。さすがにちょっとしつこいよね」
当然の反応である。断り方もだんだんきつくなりつつあった。
それでも諦められなかった。意味がわからないくらい好きだった。意味がわからないくらい、美桜を求めていた。絶対に諦めたくなかった。