私がお母さんを支えられる器なのかはわからない。はっきり言って自信はない。私はまだまだ自分のことだけで精一杯だ。
だけど、話し合うことくらいならできるんじゃないだろうか。
もしも、最終的にわかり合えなかったとしても。
「いろんなことに気づけたのは……少しずつだけど状況が変わってきてるのは、蓮のおかげだよ」
「違う。美桜自身の力だよ。美桜が頑張って、少しずつ変えてるんだ」
蓮が小さく微笑んだ。
風が吹いた。ふたりの間を桜の花びらが舞った。
すぐそこに蓮がいるのに、なぜかすごく遠くに感じた。
「……ねえ、蓮。今までどこにいたの?」
「わからない。目が覚めたら今日になってた。死ぬほど焦った」
「わからない、って」
私は蓮のことをなにも知らない。
どこに住んでいるのかも、中学校がどこだったのかも、一年生の頃はどこのクラスだったのかも、なにも。
だけど蓮は、まるで私のことをずっと昔から知っているみたいだった。
「……ねえ、おかしくない? どうして蓮は地震が来ること知ってたの? それに……みんな蓮の声が聞こえてないみたいだった。あんなに叫んでたのに、誰も……それどころか、みんな蓮のこと知らないって言うの。咲葵も蘭音も茜も、知らないって」
まるで、蓮がこの世界から消えてしまったみたいだった。
──違う。
蓮が、最初からこの世界に存在していないみたいだった。
「みんなに俺のことが見えなくなってるのも、忘れられてるのも気づいてた。そのうち美桜もそうなるんじゃないかって思ってたけど、まだ見えてるならよかった」
蓮はポケットから手を出し、マフラーを外して、学ランの袖を肘までまくった。
「……え?」
蓮の腕は透けていた。両腕の指先から肘まで──首元も、半透明になっていた。
消えかけているように見えたし、まるで蛍みたいに、最後の力を振り絞って光っているようにも見えた。
散りゆく桜の花びらに囲まれて、蓮は寂しそうに微笑んだ。
「これから俺が話すこと、信じてくれる?」