大道具が倒れる音、積み上げていた机や椅子が崩れる音、窓ガラスが割れる音、破片が床に叩きつけられた音。
他クラスの生徒たちも、悲鳴を上げながら廊下に飛び出てくる。
それはおそらく十秒かそこらだったけれど、終わりのない時間に感じた。
次第に揺れが収まり、徐々に身体を起こしていく。
みんな抑えきれない不安の色をあらわにしながら、なにが起きたのかわからないといった表情で、けれど友達の安否を確認するように視線を送り合う。
教室内は、つい十秒前からは想像できなかったほどの惨状だった。
大道具が倒れ、積み上げていた机が椅子が崩れ、窓ガラスは割れ、破片が床一面に散らばっている。
教室から出ていなければ、私たちはおそらくシャレにならないほどの大怪我を負っていた。
蓮が来なければ──。
「……蓮」
見渡してもいない。
ついさっきそこにいたはずの、私たちを助けてくれた蓮がいなくなっている。
「ねえ、れ──時生は?」
隣にいた蘭音の肩をわし掴みする。
「は? トキオ?」
蘭音は怪訝そうに眉根を寄せた。「誰それ?」と続きそうな顔だ。
こんなときまで小芝居をするなんて信じられない。
かっとなって、蘭音の肩を揺らした。
「時生だってば! もやしみたいな体型で髪ぼっさぼさの! あんたがくだらない理由で勝手に毛嫌いしていじめまくってた時生蓮!」
「い、いじめって⁉ なんのこと⁉ ちょ、ちょっと、美桜、なに言ってんの⁉」
「ふざけてる場合じゃ──」
「美桜、どうしたの⁉」
慌てて咲葵が駆け寄ってきた。
「咲葵、時生見なかった? どこにもいないの!」
「……ちょ、ちょっと待って、ごめん、美桜」
咲葵は蘭音と同じ顔をしていた。
目を配れば、この場にいる全員が同じ顔をして私を見ていた。
まるで宇宙人でも見ているみたいに不思議そうに、そして異常者でも見ているみたいに若干の恐怖を滲ませて。
ふいに黒板の文字が視界に入った。
五月六日、金、日直、桐谷、久保、欠席、なし。
咲葵の綺麗な字で、確かにそう書いてある。
「……え?」
欠席──なし。
なんで?
蓮がいないのに、なんで?
咲葵は放心している私の顔を覗き込み、しっかりと目を合わせて言った。
「トキオって、誰?」