そんなこと……。たぶん自分は勘違いしているんだということは、なんとなくわかって来ていた。

けれど、引っ込みがつかないと言うか。

正体不明の『いつき』という少女に対して、まだわだかまりは解けていなかった。

本当になんであの美少女を『弟』なんて称するのかもわからない。

途中、流夜くんの左手が、私の手を握った。

振り払うことも、振り払う気にもなれなかった。

手のひらを上向かせて、握り返した。

《白》につくと、あの人はまだいなかった。

流夜くんが龍生さんに「斎月に話があるから使わせてほしい」と願い出ると、龍生さんは「おう」とだけ応じた。

テーブル席。流夜は窓際に座り、隣に私を座らせた。

「咲桜……何か嫌なとこでも見たのか?」

流夜くんの声は、ずっと私の心配しかしていない。

……何やってるんだろ、自分。大事な人をこんなに困らせて……。

「ううん……。その、仲好さそうだなー、って。あと、頭撫でてたり、とか……」

「は? あのクソガキにそんなことするわけないだろ――」

流夜くんの言葉が終わる前に、聞き心地のいい声がした。

「流夜兄さん――」

鈴のような綺麗な声。息を切らせて二人の前に姿を見せたのは、先ほどの少女だった。

「斎月」

いつき。肩がぴくりと跳ねた。いつきさんは、流夜くんを見て目を吊り上げた。ダンっとテーブルを叩く。

「主咲(つかさ)くんとこ行く途中だっつっただろうバカ兄貴! なんで呼び戻すんだよ!」

いきなり怒られてびっくりした。流夜くんは驚いた様子はなく同じ音量で怒鳴り返した。

「お前の所為でややこしいことになってんだ! 主咲んときにごちゃごちゃしたのも俺が解決してやったんだろうが! ちったあ協力しろネコガキ!」

「ここで喧嘩すんなつってんだろーがガキ共」

ゴチンッ

「「~~~」」

喧嘩両成敗。龍生さんに、お互い頭突き喰らわせられた。

流夜くんもいつきさんも蹲っている。りゅ、龍生さん本気でやったんじゃ……。