「斎月は俺が中学の頃からの知り合いだ。なんと説明していいのか……向こうの立場上はっきり言えなくて悪いんだが、弟みたいなもんなんだよ」
「………」
弟。
「なに、それ……」
「え? 咲桜?」
「弟って家族じゃん……流夜くんにそんな人がいるなら知ってたかったよ……っ、ってかそもそもあの美少女が男なの⁉ はっ! まさか何か手術的なことをされた方とか――」
私の思考回路、途中からぶっ飛んだ。
流夜くんはびっくりした顔になる。私も、自分の言葉にびっくりしていた。自分のやきもちの加減ってそんなところにあったのか……。
『流夜くんの家族』。
謝らなくちゃ。こんなのただの言いがかりだ。ちゃんと答えてくれたのを一方的に責めたりして……。そして自分の言動がまた滅茶苦茶だった気がする。
ぐいっと、腕を引かれて後頭部を捉えられた。瞬いた間に唇が押し付けられる。何度目かの感触。しょっぱい。
しばらくそのまま離してもらえなかった。息が苦しくなった頃にやっと戒めが解かれて……流夜くんは、何かを決意した表情をしていた。
捕らえられた手はそのままで、顔だけ離れた。
「在義さんは?」
「お、遅くなるって……」
「そうか」
そう言って、ポケットからスマートフォンを取り出す。
もう片腕で私の肩を抱き寄せ、腕の中に収める。思いっきり心臓が跳ねた。
「あ、斎月か? 今どこにいる? ……そうか、すまないんだが――――」
……電話の相手は、先ほどの美少女のようだ。
ま、まさかこれから世にいう修羅場になるんじゃ……。
明後日の方向に心配が加速していく。通話はすぐに終わり、流夜くんに腕を引かれた。
「咲桜に誤解させたままなのは無理だから、少し来てくれないか?」
何が無理なのかはよくわからなかったけど、あまりに真剣な瞳で言うので、こくりと肯いてしまった。
駐車場に停めてあった流夜くんの車に乗せられた。
「あの、どこに――?」
「《白》。まだ近くにいるって言うから、あいつから説明してもらう。俺ではどこまで話していいか、正直わからないから。……不安にさせて、ごめん」