手は伸びた。けれど寸前で止まる。

指が、くっと折れて、触れらなかった。

振動を続ける機体。

出なければ――一度出なかったくらいでは、タイミングが悪かったかと深くは考えないだろう。

私だって年中流夜くんの連絡を受けられるわけではなかった。

今は、心的な問題でそれが叶わなかった。
 
流夜くんの恋人だったという、見知らぬ人たちに妬いたこともある。

どうして自分は流夜くんに釣り合う年齢でなかったのかと嘆いたことも。

そうすれば、隠し事などさせずに堂々と寄り添っていられたものを。

――過去の人たちとは、流夜くんの傍らにいて、何ら批判も浴びない立ち位置だったのだろう。

私は違う。九つも年が離れていて、更に今は同じ学校の生徒と教師。誰ともなしに打ち明けられる相手ではない。

それでも流夜くんは、三年待つと言ってくれたのに。

――私が卒業したら、一番に攫いにいくと。

流夜くんを信じていないわけではない。その言葉、違えられようとしているなんて焦りはない。

ただ――なんだかとても淋しくて。

あの女性が誰なのか、流夜くんにとってどんな存在なのか、気になり過ぎる。

そして、あれほど真面目な様子で話す相手……。

流夜くんの家族は、行方不明のお姉さん以外はいないという。

生後間もなく両親たちも亡くしているから、まさか物語の王道・妹なんてことはないはずだ。

親類縁者に頼れる人もなく龍生さんの祖父の許に引き取られたそうだから――あ、だからといって、従妹やはとこという可能性はあるのか。

昔、家族が邪険に扱ったのを申し訳なく思った女性が現れ、流夜くんに詫びに来た、とか。

それは何とかギリギリ、筋を通せる話かもしれない。

「………」

だめだ。それでもやっぱり嫌だ。そんな相手なら教えておいてほしかった。たとえば名前のつく場所にいる人なら――

何を莫迦なことを。

流夜くんが私の存在を周囲に打ち明けられないのは、紛れもなくお互いの立場の所為なのに……。