いや、女性というべきか。
絆さんではない。
背が高くスタイルのいい美少女だ。
小さな顔に、長い黒髪は高い位置で結っている。
マナさんや夜々さんや、美人や可愛いと言われる人は何人か知っているけど、その人には『美少女』という言葉が一番似合う。
――そんな女性が、流夜くんと真面目な顔で会話している。
……あれ? 流夜くんに、こんなに親しい女性がいるとは聞いたことないけど……。
足は反転した。歩いて来た道を戻ってしまう。
見てはいけないものだったかもしれない。
流夜くんは、高校時代は周囲と幼馴染の誤解から適当な女性関係があったらしい。二股浮気はしない。けれど来るもの拒まず、去る者追わず。そんな。
そんな流夜くんが、とびっきりの美少女と――密会、している。
目を逸らしたのは、流夜くんの手がその少女の頭に伸びたところを見てしまったからだ。まるで撫でるように。
……えーと。
女性の年のころははっきりとはわからない。
二十歳を超えていると言っても通用しそうだし、まだ高校生とも見える。
それは自分が常々言われているから、そういう容姿が珍しいものではないことは知っている。
んーと……。
思考回路、ショート寸前。
いっぱいいっぱいになって――私は問い詰めるという選択肢を見つけることが出来ずに、逃げた。
家に帰って、部屋に閉じこもった。在義父さんからは、今日は遅いとのメッセージが届いていた。
頭が限界だった。
いつまで沈んでいたのか、とっくに陽も傾いたころに、スマートフォンが着信を告げた。
運の悪いことに、今日はそれが電話の報せだった。