「な、なんのことですか?」

そう誤魔化すのが精いっぱいだった。

「なんもなにも。弥栄先生の彼女は一年の多賀来桃。そのくらいは知っています。俺に話して来たってことは、共犯者にでもしようとしてますか」

「―――」

え? ……全バレ? 俺が何を狙って、何のためにどの話を――するつもりでいたのか、全部ばれてる? 目的も、目論見も……。

「なんで俺が生徒と付き合うんですか」

ごめん、心の中で謝りつつ、俺は平静を装った。

神宮先生の視線が刹那だけ光った気がした。

「二人が対面しているときの心拍数、心音程、皮膚表面から見る体温の上昇等などからそう推察出来ますが」

「…………」

……は、はあ? この人、何語を話してるんだ? 話している内容の、さっぱり意味がわからない。

「弟のやり口なんで心得ようとしてるんだけど……なかなか生来のものがあって、弟ほど出来ていないけど、ですが」

「…………」

えーと……取りあえず、否定しなければ?

「別に否定されても肯定されてもどっちでもいいですよ。あなた方のこと、誰に言う気もありません。話はそれでいいですか?」

――神宮先生じゃない。

それしか、頭に浮かばなかった。

少なくとも俺が今対面しているこの人は、俺の――俺たちの知る、教師である『神宮先生』ではない、ことだけは確信だった。

他人を見透かすような眼差し。人の良さなんて欠片も見えない。だれだ? このひとは……。

「……咲桜と付き合ってること、否定しないんですか?」