神宮先生が教師室よりも旧館にいることは知っていた。
物好きと言われているけど、蔑視されているわけではない。
神宮先生は穏やかで人当たりがいいし、ほかの教師へのフォローも上手い。
でも恩着せがましくもないから、出過ぎず目立たず、といったところかな。
その神宮先生が生徒に手を出した……まあまあ、最初は俺の勘違いだろうと思ったけど、なんでか、相手が咲桜だと納得してしまったというか、しっくりきてしまった。
そんな神宮先生だから、俺は秘密の共有者になってもらうことにした。
脅すわけじゃない。ただ、俺の秘密を未来に繋げるためには、協力者が必要なんだ。
穏やかな気質の神宮先生なら、それも受けてくれるんじゃないかと期待がある。
旧館で待っていると、さすがに少し驚いた顔をしていた。
「どうしました? 弥栄先生」
のも束の間、すぐに困ったような微笑を浮かべて問うてきた。
「神宮先生に話したいことがあって。他の人に聞かれると難なことなんで」
「そうですか? 怖いですね、なんでしょうか」
神宮先生は眉尻を下げた。
うーん、ほんと穏やかな人だよなあ……この人が生徒に手ぇ出すかなあ……。
今更だけど疑わしくなってきたな。したら俺が一方的に弱み握られるんだよなあ。どうするかなー。
……少しカマかけてみるか。
「先生、華取咲桜と仲いいですよね?」
「………多賀来桃(たが くるみ)とのことを口止めにでも来ましたか?」
え?
「え、と……?」
あれ、今、神宮先生、なんて言った? 誰の……名前を出した? ふと、神宮先生の纏う空気が変わった気がした。
鋭い。鋭利な気がしたんだ。
「別に言いふらしたりしませんよ。そして詮索の仕方が下手です。自分からネタ売ってどうしますか」
な、なんだか神宮先生の視線まで冷えているような……?