「……降渡」

「うん?」

「ごめん、ね……高校のころ、とか……」

「別に謝ることじゃないって。俺も理由言ってなかったし」

「でも――」

「そんなに言うんだったら、一つだけ俺の言うこと聞いてもらってもいい?」

「……この流れで結婚しろは卑怯よ」

「そんな節操ナシじゃねーって。りゅうがもうすぐ結婚するんだ。それに反対しないでやってほしい」

俺のお願いに、絆は三秒ほどぽかんとしたあと、くわっと目を見開いた。

「………はあ⁉ あの節操ナシが⁉ 結婚⁉」

「絆声大きい」

「大きくもなるわよごめん! ……はー。ほんとなの? 神宮が結婚て」

「うん。いつになるかはまだ決まってないけど、相手の親御さんも了承済み。公認だから心配しなくていいよ」

「神宮の心配なんかしないわよ。相手の心配はするけど。……わたしが反対しようが、別に神宮気にしないでしょ? わたしが式に呼ばれることもないし」

「でも絆は俺の女だろ? 兄弟みたいなモンの伴侶には祝福してほしいじゃん?」

「………」

珍しく絆の照れ顔が見られた。いつもだったら半眼で「はあ?」とか言われるのに。やっぱりりゅうの結婚という単語が現実に影響を与えたか。

「そ、そうね、兄弟みたいなものなのよね」

絆はさっと視線を逸らして早口に言った。

「そう言うのは俺だけだけどなー」

……少なくとも、りゅうが俺たちをそう呼んだことはない。呼ぶことがないこともわかっている。りゅうにとっての『きょうだい』は、俺たちではない。

「大和斎月(やまと いつき)……」

「え? なに?」

「んーや。なんでもね。つーわけで、りゅうの結婚には反対しないこと、約束な?」

「……わかったわよ」

「仕事、まだ大丈夫なのか?」

「昼休憩の範囲内よ」

「そっか」

「……今日は言わないのね?」