「何それすごい。じゃあ咲桜ちゃんの方は解決してるの? あんたの方は……」
「どっちもどっちでねー。咲桜ちゃんの原因も俺の誘因も、もう死んじゃってるからね」
「……降渡」
「うん。誰がつけたんだろうね、その名前」
俺に親はいない。いないからこそ龍さんに引き取られ、天龍のじじいの許で育った。
「父親が最低のクズで母親は生まれたときからいなくて、借金に首廻らなくなって、廻らなくなった首吊って死んじまって、俺はそれを見つけて――って、さすがに咲桜ちゃんには話せないよなあ」
独り言ちるような俺の喋り方に、絆は顔を歪めている。
出逢ったのは桜庭学園高等部。絆は、中学は公立で、外部入試で入って来た。
俺はすぐに絆に目をつけられた。校則であるネクタイをしていなかったからだ。
俺は、父親が首を吊って死んでいるところを目撃している。
そういう体験をしてしまった後遺症で、それ自体は珍しいものではないんだけど、自身の首にも何かが触れることが出来ない。
ボタンも、一番上まではしめられない。
中等部は学ランだったからまだよかったんだけど、高等部はブレザーで、ネクタイは校則で必須になっていた。
教師はそのことを知っていたから、ネクタイをしてなくても特別注意されることがなかったんだけど、理由を知らない、当時風紀委員だった絆は食ってかかって来た。
特別扱いに納得がいかなかったんだろう。
一度、担任に尋ねられたことがある。絆が全然退かないから、自分の方からそれとなく言って置こうか? と。
さすがに、俺に黙って話すことは躊躇われたようだ。俺は、大丈夫ですと答えた。
その頃には絆との追いかけっこが楽しくなっていて、ダメな理由は、いつか話せたらいいか、程度に考えていたから。
絆の追い掛け回しに拍車がかかったのは、俺が留年してからだった。
りゅうとふゆが高等部に入ったことで、俺がまともに授業を受けていなかった理由を絆に知られた。
学年も違ったのに、それまで以上に追い掛け回して来た。
俺はただ、それが楽しかったから止めようとかせずに追い掛け回されていたんだけど、その頃りゅうも厄介なことに巻き込まれていて、絆もそっちの一人だと思われたようだ。
絆を俺の傍から排除しようとしたから、ぶっ飛ばして置いた。
……皮肉にもそれで、俺が絆を特別に思っているのだと気づかされた。たぶんずっと前から好きだったんだと。
それを話したら、りゅうは蒼い顔で謝って来た。りゅうが顔色を変えるのは珍しい。
以来、俺は絆に告白しまくっているんだけど、絆の反応はなんと言うか……素直に肯いてはもらえないんだけど、拒絶も否定もされていない、宙ぶらりんな状態だ。