「降渡」

「あ、来てくれたんだー」

《白》の隅のカウンター席で、思わず顔がほころんだ。

俺は先日、ここで大喧嘩を披露した絆を待っていた。

絆は難しい顔をしている。龍さんに頭を下げてから、俺の隣に座った。

「仕事はいいの? 不良探偵」

「いや、絆まであいつらに影響受けなくていいから。ほんと真面目にやってるから」

「あんたが真面目なのは知ってるわよ。……そこでにやけるからツラの分台無しなのよ」

「ごめんなー。でも、咲桜ちゃんの名前出して来てくれるとは思わなかった」

「そりゃ、在義様の一人娘だもの。在義様の食事全般を握ってる子よ? なんかそれだけですごい子じゃない」

「うん、絆って俺ら以上の在義さん信者だよな」

「そんな子に――咲桜ちゃんに、何があったの? わたしが聞いてもいいの?」

「なんてゆーかさー。……絆、俺がネクタイしてないの、正直最初どう思った?」

「それ、は――申し訳なかったと反省してるわ。そういう事情があるって知らなくて……って、言い訳になるわね。撤回する。どういう事情があれ、理由を訊かずに無理にさせようとしたことはわたしのダメなところだわ」

「そっか。……咲桜ちゃんもさ、似たようなの、あんだって」

「え? わたしみたいに早とちり?」

「んじゃなくて、俺の方。……首に何か触れると、ダメ。咲桜ちゃんは過呼吸起こしちゃったんだって」

「そ――なの……」

「うん」

「それは、ね……あれ? でも咲桜ちゃん、ネックレスしてなかった? 藤城は内部の校則は緩いって聞くけど」

「あ、あれは咲桜ちゃんの彼氏があげたんだって。そいつのおかげで、今はもう首に触れても大丈夫みたい」