「え!」
『あ、本当に咲桜の用事が終わってからで――』
「行きます! 絶対! むしろいいの? 忙しいんじゃ――」
『そのくらい片つける。在義さんには了解もらってるから』
「え―――」
父さんに? 私が流夜くんのアパートへ行くのは、そう珍しいことでもない。
現在教師である流夜くんと付き合うことは在義父さん公認でもあるし。
私も念のため、流夜くんのところへ行くときは在義父さんにメールを入れてから行くけど、流夜くんから了解を取っていると言われるのは珍しい。
『だから、帰りとか心配しなくていいから、もしこっち来れるの遅くなったら迎えに行くし』
「あ、ありがとう……」
流夜くんが優しいのはいつものことだけど、今回はなんだか……優しいだけではない? 気がする。
『じゃあ、またな』
「うん。ありがとう」
ぽちっと電話を切って、画面を見つめたまま固まった。
「………」
自分、アホだ。
「ケーキ作るのは気合入れてて約束取り付けるの忘れてた……」
なんという間抜け。――そんなことで悩んでいるもんだから、私はどうして流夜くんが日にちを指定して約束をしてきたのかまで考えが廻らなかった。