「へえ?」
「な、なんですかその笑い方は……」
咲桜の眉間に皺が寄る。
「いや? ちゃんとそういう風に思っててくれたんだなー、と」
「そういう風?」
咲桜の髪をかきまぜる。
「わからなければ考えろ。……仕事のことで在義さんに話すことあるから、待たせてもらってもいいか?」
「あ、うん」
はぐらかされたのを釈然としないらしい咲桜は、考え込んだ顔つきになった。
さっきの言い方から、俺として言質(げんち)を取った気持ちだ。
……こういう考え方なところが、俺は『事件頭』と言われてしまうんだろう。
咲桜はわからない顔つきのまま夕飯の支度にとりかかった。
在義さんからは《白》からの移動中にメッセージがあって、今日はもう本署を出たと言うことだ。
出来あがる頃には着くだろう。
隣に立って咲桜の手伝いをする俺は「お仕事あったら大丈夫ですよ?」と言われたのだが、「今は咲桜の傍がいい」と返した。
はっきり聞こえなかったのか咲桜が首を傾げたままでいるので、背後に廻って後ろから腕を取ってみた。
このまま手伝おうか? という俺の提案を、咲桜はぶんぶん首を横に振って否定した。色んな意味でだめ! と怒られた。
……色んな意味? 邪推しながら、顔つきは渋々、「はいはい」と離れて隣に立った。
――やっと宮寺の件が落ち着いたと思ったら降渡たちの喧嘩に巻き込まれて、また余計な入れ知恵する可能性のある奴と咲桜を接触させてしまったし。
というかもう入れ知恵されているし。
在義さんに話があるのは本当だ。
昨日突然呼ばれた、天龍(てんりょう)の千歳(ちとせ)の件で。
……そんな無粋な話、咲桜にはしないでおこう。今やっと、こうやってすぐ隣にいられるのだから。
「ただいまー」
「おかえりなさーい」
「在義さんおかえりなさい」
出迎えた俺たちを見て、在義さんは何やら満足そうに肯いている。