「いひゃ、いひゃい~」
レンの両頬を摘まんで引っ張るゼン。うんうん、それでこそゼンだよねー。俺は傍観者決め込んだ。
「お前に余程感情なけりゃあんな面倒くさい家の嫁に出来るか。レンにも色々不条理な迷惑をかけるってわかった上で求婚したんだが?」
「つまりこれからどんな苦難があっても一緒に乗り越えようね、絶対に俺が護るから! みたいなノリだったんだよねー、ゼンは」
「ノリじゃねえよ。意志で言ったに決まってんだろ」
「はいはいごめんなさいー」
「……ほんと?」
頬を押さえたレンに見上げられて、ゼンは一瞬息を詰まらせた。
男装が得意で女を口説くのが得意でも、恋は女性だ。
……ゼンの負けだ。
「……お前が肯いてくれなきゃ、俺は生涯独り身だよ。閃を養子にしていたのは変わらんだろうが、レンがいた方が閃も楽しいだろ」
「……うん、がんばる」
「まずは家を抜けだす癖を改めてくれ」
「…………善処します」
「あははー。しばらくは無理そうだねー」
「ケン」
「はいはい。どうぞー」
ゼンに軽く睨まれながら、本日最後のコーヒーを出した。
「愛情が全部、報われたらいいのにって思うよねー」
「……」
「………そうだな」
報われない恋も愛情もある。だからこそ。
「お互いがいるだけで幸せな恋人って、すごいよね。ゼンとレンみたいにさー」
「お前もだろ」
ゼンは素っ気なく返す。俺は唇の端だけで微笑んだ。
色んな過去を知っている。誰も彼も、思いは通ずるばかりではない。
だからこそ思う。今日見た恋人たちは、本物なのだと。