これ以上咲桜の女性賛美を聞きたくない。こいつ、友達のことを天使とか思ってのか……。
桃子さんとのことは聞いたが、咲桜の生育過程に他になにかありそうな気がしてしまう。例えば、お隣とか。
強く抱きしめて、咲桜から力が抜けた頃、ようやく離した。
「うー……」
こてん、と俺の肩に咲桜の額が乗った。
「ったく……なんで女相手に妬かなきゃいけねんだ……」
ぶつぶつと呟く。本音だ。
「りゅうやくん……?」
聞こえたのか、咲桜が不思議そうな声音で呼んで来た。
「なんでもない。咲桜のマザコンはぶっ飛んだ方向にいったなーと」
咲桜の意識を自分に向けられたようなので、子どもにするように背中を撫でる。
「……わたしが好きなのは、流夜くんだけですよ?」
「………」
………やられた。
悔しいので反論してみる。
「さっき女すきって言ってたろうが」
若干声が恨めしくなるのはゆるしてほしい。嫉妬真っ最中なのだから。
「それは――憧れ、かな? 皆さんの中に、私にはない綺麗なものが、たーくさん、あるから。……流夜くんのことは、世界でひとりだけ、結婚したい意味の、すき」
ですよ? 咲桜も、さすがに俺の気分を害してしまったと思ったのか、そう付け足した。
なんなんだこの可愛い生物は。また抱き寄せた。するといつもは困惑する咲桜が珍しく、すぐに抱き付き返して来た。
「………なあ、咲桜」
「ん?」
「………」
さっきのテンションどこ行ったと思うほど、今は穏やかな咲桜だ。
「……そういや、絆に電話するのか?」
「へ? なんで?」
「言ってたろ、俺に不埒な真似されたら連絡しろって」
「え? ………な、なんですきな人にキスされてそんな連絡するの!」
泡喰った咲桜は、それを愉快そうに眺める俺を見て閉口した。