「ついでに言うと、さっきから出てきてる名前の頭文字拾ってみ? 咲桜のすきな名前になるから」
「え……『きり』はらさんに、『あま』しなさんに、『ねこ』やなぎ、さん……?」
「そ。で、順番変えてみる」
「………」
きり、あま、ねこ。
霧。天。猫。
「あ、天霧猫様⁉」
「おや、私たちのことをご存知か?」
素っ頓狂な声をあげた咲桜に、恋さんはおやおや、と嬉しそうな顔をする。
「だ、大ファンです! 流夜くん知り合いだったの⁉」
「まーな。在義さんに言われるまで気が廻らなかったけど」
「猫様って三人いたんですか⁉」
驚愕収まらない咲桜に、剣さんが説明してくれた。
「俺とゼンが幼馴染で、レンはゼンの彼女だったんだよ。元々は三人で作ってた話。『天霧猫』の名前でデビューする頃には、ゼンは天科グループを継いでいたから、実質はレンと俺の二人で書いて来たけど」
「素敵過ぎます! 流夜くん、さっきの賭けは私の負けでいいです異論ありません!」
「潔いなー」
と言うか認めるのか、浮気って。
「何? 賭けって」
「さあ?」
愉快さを隠せない俺を見て、剣さんは「楽しそうだねえ」と苦笑した。
「……流夜、あれは止めなくていいの?」
「女に妬くのは疲れた。もう相手にしないことにした」
コーヒーカップを傾けていると、剣さんが言った。
隣の席から立った咲桜は、恋さんの両手を握って『天霧猫』への心酔振りを披露していた。目がキラッキラしている。