+++


「ここは――」

「城葉(きば)研究学園都市。の中」

「それはさすがにわかってるけど、あの……正直私には縁遠いと言うか……」

流夜くんの車を降りた私は、すっかり萎縮(いしゅく)していた。

隣の県にあるここは、城葉研究学園都市という名を冠する。

名のある大学、進学校、研究施設が意図的に集められた巨大な都市だった。

今の規模になったのは二十数年前。

中心になっているのは天科(あましな)グループという日本有数の企業だ。

「って言うかさっきガードマンぽい人いたよね? なんか向こうが頭下げて来たから私も礼したけど」

通ってきた道を振り返る。

「顔見知り。よく来るから」

「……やっぱり私には場違いなのでは」

「いや、用があるのはこの外。だけど、そこに行く前に挨拶しとかないとうるさい奴がいてな」

「……どういうこと?」

「ついて来ればいいこと」

楽しそうに言って、手を絡めとられた。

「よく来るって……」

「この中に、対犯罪研究施設があるんだ。城葉都市を作った天科直轄の。そこの所長と学生時代からの知り合いで、今も世話になったり世話かけられたりしてる」

「そういうこと……」

「それで、今から行くのは俺を桜学(さくがく)に招(よ)んでる奴」

「―――」

い、一気に緊張してきた。

流夜くんが年度終わりで先生を辞めるというのは少し前に聞かされている。

完全に、学者一本にするつもりだから、と。

でも、この私立桜宮学園に教師として招かれているとも聞いている。

流夜くんが言うに、同じ学校でなければ少しは気にする周りの瞳も違うというのと、流夜くんが教師になった目的は遥音先輩を進学させるためだったかららしい。

行く可能性はない、と流夜くんは言っているけど、呼ばれているのが、かの桜学(さくがく)。

藤城・桜庭も名門として有名だけど、桜学はその上を行く、全国規模で名の知れた学校だ。

初等部から大学部まであって、特に現理事長の与する一族、天科グループは学問に特化した大企業として名がある。