「はい?」

龍生さんは笑満のことを、そう呼ぶ。

「遙音のことだが」

「……はい」

「娘ちゃんの家族は、あいつのことを認められるのか?」

「――――――」



笑満が言葉に詰まると、私が口を挟む前に龍生さんが片手をあげた。

「すまねえ。意地悪い質問だったな。気にしないでくれ」

「……いえ」

笑満は少しだけ視線を落とした。……気にするな、とは言われても、忘れてくれという言い方はされなかった。

「……遙音くんと付き合ってること、あたしがお父さんやお母さんに言えていないのは、本当のことですから」

「二人では、どうするか、とか話してんのか?」

「……言い出せていません」

「そうか――

「でもあの! は、遙音くんに発破かけるのとかは、やめてください。これは、あたしと遙音くんの問題で、あたしが話すべきことですから」

龍生さんに向いた凛とした瞳に、頼は軽く息を呑んでいた。

それからまた視線を落とした笑満は、ぱっと顔をあげた。笑顔だった。

「そういうわけなので。今日はありがとうございました」

笑満が深く礼をして、私も慌てて頭を下げた。さて、何作るか決めよー! と意気込む笑満と私に、龍生さんが最後に言葉をかけた。

「松生の娘ちゃん。これでも俺も、あいつの親代わりだ。遙音を見つけた以上相応の役割は、果たすつもりでいる」

「………」

「あいつのことで困ったことがあったら、いつでも来てくれ」

龍生さんの中での、遙音先輩の位置。笑満は唇を噛んでから、また頭を下げた。

「よろしくお願いしますっ」

「ああ」

まだ、笑満は家族に遙音先輩のことを言えていない。過去があるからだ。それでも、その先に今、生きているのは確か。

凛然とした瞳をするようになった親友を隣に、私は口元を緩めた。

……こんな風に笑えるのは、受け止めてくれた流夜くんのおかげだと思った。