「………うん」
「悔しければ遙音にでも喧嘩売って来い。松生絡みなら買ってくれるだろ」
「いやあの、喧嘩売って来いって言い方もどうかと……」
咲桜が口をにごす。そうか?
「咲桜は負けないよ。何にも」
髪で頬を撫でるように掬うと、咲桜は何度も瞬く。
「ま。俺くらいには負けてほしいものだけど?」
いつもいつも咲桜には負けっぱなしだから、たまには咲桜の心臓に負担をかけてみたい。
「……負けっぱなしな気しかしません」
「そうか? 俺の方こそ連敗な気がするけど」
「……そうなの?」
「さてな」
咲桜の中では俺に負けた記憶があるのか。詳しく訊いてみたいところだけど……。
「……お前は日義のときもそんな風になんのかな」
咲桜の髪を手で梳きながら、ぽつりとそんなことを言った。
咲桜が、あっと何かを思い出した顔になった。
「――流夜くん、ちょっと座ってください」
「うん?」
咲桜がローソファの上で横向きに正座したので、流夜も同じように咲桜を正面に正座した。
部屋はリビング兼ダイニングキッチンと、寝室に分かれている。
リビングにはローテブルとローソファが置かれている。
椅子や高さのあるものだと、仕事が詰まり過ぎてうっかり寝落ちしたとき自分が落ちたり資料を落としたりパソコンを落としたりして危ないからだ。
その分脚のない今の形だと、床に散らばった資料にもすぐに手が届くし何かと便利だ。
このソファも、実は寝具としてはベッドよりも使用頻度が高い。
俺の身長対応で幅があるので、二人で向き合っても余裕がある。
「最初に謝っておきます。頼の存在証明について」
「タイトル重いな」
なんでそんな飛躍した話題が飛び出てくる。
「私は女の子が大すきです」
「知ってる」