「笑満が……」
「松生?」
咲桜はきゅっと瞳を瞑った。
「~~~笑満がいなくなっちゃいます~!」
「は?」
俺が伸ばしかけた手を宙で止めると、咲桜が、がばっと顔をあげた。目に涙を浮かべて、口を引き結んで睨むように見て来た。
「笑満を遙音先輩にとられました~! 悔しいです~‼」
「………」
呆気にとられた。
……咲桜にそんな感情があったのか。
「笑満が~~~」
わーん、と思いっきり泣き出してしまった。仕方なく、小さな子にするように背中に腕を廻して抱き寄せ、頭を撫でた。
咲桜は「うう~」とうなっている。
……特に女子同士にあると聞く、友人に彼氏が出来た時の喪失感。
友達をやめたわけではないのに、いなくなってしまうという感覚。
咲桜は割かしさっぱりしているし、対して松生は依存度が強いようだから、松生の方がこういった感覚は持ちやすいのかと思っていた。
が、松生にその様子はなく、咲桜の方が抱いたか。
……理屈じゃない、か。
「私の友達なのに~」
「そうだよな」
ぽんぽん。頭を撫でる。
「私だって笑満すきなのに~」
「な」
とんとん。背中を軽く叩く。
「遙音先輩のばか~」
「まああいつは基本馬鹿だよな」
俺らの方に来ちゃうし。
咲桜の言葉とは意味は違うことは確実だけど、同意。
「うう~~~りゅーやくんの意味ちがう~」
……混乱していてもそこはわかるのか。
咲桜は俺のシャツの肩口を摑んで、額を押し当てた。
「……大丈夫だろ」