ダンッ!

「ちょ⁉ その振り下ろし方は何⁉」

「え? 肉の斬り方ってこうじゃないのか?」

まな板の上の豚肉に包丁を振り下ろした流夜くんは不思議そうな顔をする。

私は顔から血の気が引くのを感じた。こんな包丁さばき見たことないよ!

「漢字が違う気がするよ⁉ 包丁は頭の上から振り下ろすものじゃないはず!」

「や、こうやるってじいさんに教わったんだけど」

じいさんて、龍生さんのおじいさん……? 私は唾を呑み込んで訊く。

「な、何を料理してたの?」

「こうやって鶏の首落としたり……」

「ニワトリの首⁉」

落とすの⁉

流夜は「ああ」と続ける。

「天龍では、じいさんが鶏飼ってたんだ。卵もらうためにな。卵うまなくなった鶏とかは、肉にして食うんだよ」

「そうなの⁉」

「じゃないと無駄にするだろう」

「えーと……」

確かに、と肯けるけど……。

「咲桜はこの辺りを片田舎とかいうけど、山ん中で育った俺らからしたら十分街中だよ」

「……そうなの?」

「まあ、あっちで使ったの鉈(なた)とかだけどな」

「包丁と鉈では随分違うと思うよ⁉」

どんだけワイルドライフだよ。

「そうか……。なら、鉈を使った料理とかなら出来るかもしれないな」

「野外でしてください! 家の中で鉈は禁止!」

何、新発見! みたいないい顔をする。

それに、それって銃刀法大丈夫なのかな。でも鉈は農耕器具? だからいいのかな。

「――なあ咲桜。今日何があった?」

「え? 今日ですか?」

「朝から遙音が様子おかしくてな。何か知ってるか?」

「………」

カチ。私はフライパンをかけていたコンロの火を消した。