「あの! ごめんなさい、流――」
「し。中で話そう」
流夜くんが自分の口元に指を立てたので、私は黙ってこくこく肯いた。
助手席に滑り込み、顔の前で手を合わせた。
「ごめんなさい、私が勝手に入っちゃったから何かまた――
流夜くんは軽く笑いながら応える。
「気にすんな。俺と関わってりゃ、降渡にくっついてくる絆にも逢わないわけにはいかなかったしな。誤解してくれたみたいだから言うけど、絆には婚約とそれに関することは言わない方がいい」
「……うん」
やっぱり反対される可能性があるから……意気消沈気味に肯くと、流夜くんの手が私の膝の上の拳を握った。
「たぶん、絆は反対も賛成もしない。ただ、自分の立場から考えた行動をするんじゃないかと思う」
「立場?」
「法律を遵守し、反するものを裁きの舞台にかける。――弁護士である以前に法律家って意識の強い奴だからな。『学校で教える道徳心』が強いんだ。だから、いくら俺が咲桜に惚れていて在義さんや周囲に認められていても、それが道徳――教師と生徒の関係としては思わしくないと判断したら、『在義様』とか呼ぶほどの人の娘のことでも、白日にさらすだろうな」
「………」
黙った。
正義心? ……でも、それが『当たり前』なのかもしれない。
在義父さんや周囲の人が認めてくれているけど、世間的にはゆるされないこと。
「つっても、絆は桜庭生だから藤城に来たりはしないし、勿論華取の家やうちにも来はしない。降渡絡みで逢うことがあったら、『在義さんの娘』と『在義さんの後継者の一人』って立場でいれば、教師生徒以上に親しくしても疑われることもないだろう。深く考えるな。咲桜は心配でドツボにはまるタイプだからな」
茶化すように言われて、そろりと顔をあげた。
上目遣いに見た流夜くんは、心配ない、とその瞳で言って来た。
「……うん」
流夜くんの恋人として、胸を張っていたい。そう思った。そのために、今は関係を隠すことも必要なのだと意識する。そして、いつか誰にもはばかることなく流夜くんの隣に立てるようになったら――