「よかったね、王子様迎えに来て」

二限目の始まる前に教室に帰れたあたしは、咲桜ににやにやしながら言われた。

「そ、そういう言い方しないの!」

「えー、だってあれはどう見てもお姫様攫ってく王子様じゃん」

「夏島先輩ってスポーツやってたっけ? 軽々と! だよね!」

「びっくりし過ぎて笑満羨ましすぎんだけど!」

クラス中の女子が集まってきた。

恥ずかしさが臨界点なあたしは小さくなった。

ちなみに遙音くんは、小学生当時はバスケをしていたけど、今は龍生さんに師事して柔道や剣道の武道の方をやっていると聞いた。

「ねー日義―。姫抱っこの写真撮らなかったの?」

「あったらほしい!」

「な、何言ってんの!」

机に突っ伏した頼に話が振られて、泡喰った。そんな恥ずかしいもん残されてたまるか!

頼がむくりと起き上がる。

「咲桜に全部消されたー」

『………』

クラス中の瞳が咲桜に向く。

咲桜は、はっと薄く笑った。

「私が消さないとでも?」

思いません。きっとみんな、異心同音に思っているだろう。日義の飼い主だから、この子、と。

予鈴が鳴って、それぞれ席に戻る。あたしはやっと解放された。

「さすが日義の飼い主だねー」

「なんだかんだ最強なのは咲桜な気がする」

結構な言われようだった。

……神宮先生は、咲桜のこういうカオは知ってるのかな?

天使と呼ぶことを決めた親友を見遣る。

これが神宮先生の前に立つとあんな乙女になるんだから……すごいねえ、神宮先生は。しみじみだ。

……そのあとの休み時間も、あたしは散々ひやかしのネタにされた。