「うん」
「―――」
俺の応答に、笑満ちゃんは愕然とした表情になってしまった。……ちゃんと、話すね。
「咲桜を王子様扱い、したよね?」
「―――……え?」
咲桜を? 笑満ちゃんの声と表情には、戸惑いがありありと見える。
「は、遙音くんも咲桜を男扱いするなって、そういうこと?」
「そうでもあるけど、ちょっと違うかな」
笑満ちゃんの右手を絡め取った。
「笑満ちゃんに、俺以外に男がいるのは、嫌だ」
「え……男って、咲桜のこと……? 咲桜は女の子だよ?」
「うん、それはわかってんだけど――。ごめん、お願いだから咲桜のこと、そういう風に言うのやめてほしい」
あー、すっげえ情けないこと言ってる……。神宮に触発されて本当に攫ってきてしまったけど、笑満ちゃんを怒らせないかも心配だった。
これで引っぱたかれたりしたら立ち直れない……。
「……本当言うとね? 笑満ちゃん、咲桜のことがすきだから、俺のこともすきでいてくれたのかなって、思う時があんだ」
「―――」
「これは言うつもりなかったんだけど……―――
「ばか」
平坦な声で言われて、俺がうつむけていた顔をあげると同時に、頬に柔らかい熱が触れた。………え。
「咲桜は、あたしの憧れる姿、ではあるよ。咲桜みたいに強くなりたいって。あんな風に凛然と生きたいって。でも、遙音くんはそうじゃない。遙音くんはその――……ずっと、一緒にいたい人だよ。遙音くんみたいになりたい、より、遙音くんが安心出来る場所になりたいって、思う」
「―――」
「だからね、あたしが咲桜に言う王子様って、男の人扱いじゃないから。お姫様でもいんだけど、咲桜はカッコよさが勝ってるから、王子様って言ってるだけ。……でも、遙音くんがそれがいやだったら、あたしの天使って言う」
「………」
て、天使……。こっちが引くくらい咲桜大すきだな、笑満ちゃんは。
でも、俺のことをそういう風に思ってくれるのは、素直に嬉しい。
「……攫ったついでに、もう一個意地悪いこと訊いてもいい?」