ふいっと視線が私に向いた。
「制服? 藤城の……まさか神宮、あんた攫ってきたんじゃないでしょうね⁉」
キッと絆さんが流夜くんを睨み上げる。しまった! 制服のまま来ちゃったんだった! ええと、これは何て言えばぁああああ
「川に沈めるぞてめえ。生徒だけど、お前もよく知る人の娘」
「あ、か、華取咲桜、です! はじめまして!」
流夜くんにそう言われたのにも背中を押されて勢いよくお辞儀すると、絆さんから震える声が聞こえた。
「華取って……もしかして在義様の娘さん⁉」
………。
在義、さま? 謎の呼び方に、一旦思考停止しちゃったよ。
「そうだよ。その関係で遅くなったから送ってくとこだった。そしたらお前らが喧嘩しててうるせーから回収に来いって龍さんが連絡してきたから寄った」
そういうわけ、と流夜くんが言うと、絆さんは真摯な眼差しをこちらに向けて来た。
「そう――さおさん?」
「は、はい!」
絆さんは、私よりは背が低いけれど、その堂々たる態度、気迫を感じる。
「もし神宮に不埒なことをされたらすぐに連絡ください。私、女性だけの法律事務所に勤めている諏訪山絆といいます。すぐに神宮を牢獄にぶち込みますので」
「え――」
名刺を渡され、思わず受け取ってしまった。絆さんは綺麗な笑みを浮かべる。
「在義様には大変お世話になりました。大事な娘さんのお話も何度もうかがっています。今度、さおさんにもお礼させてくださいね」
「え、と――」
返答に詰まっていると――だって牢獄ぶち込むだの法律事務所だの、とんでもない単語が飛び交っている――流夜くんの手が絆さんの死角をついて、私の腕を引いた。
「あまり巻き込むなよ。吹雪、今日はもう大丈夫だよな、こいつら」
「そうだね。咲桜ちゃんが遅くなるとお隣がうるさいんでしょ? 流夜はもう帰っていいよ」
吹雪さんが軽く手を振ったので、流夜くんは私に「帰るぞ」と言ってお店を出た。
そのときには、掴まえられていた腕も離されていた。
慌てて「失礼しました!」と、また頭を下げて流夜くんに続いた。その背中に呼びかける。