「君の記憶から消してほしい。書類は私が処分する」

「ですが――俺一人での検査ですが、機器に結果は残っています。検体も――」

「それを消してほしいと言っている。君に出来ないなら私がやるだけだ」

「―――」

『してほしい』という形で言っているのに、まるで『しろ』と命令されているようだ。刹那、喉がひくついた。相変わらず、すげえ苛烈な人だ――。

炎の塊だと評される華取在義。

本当にこの人には正義がない――。

正しさを貫くなら、この検査結果の隠ぺいは許されない。

俺もいよいよ腹を括った。

「華取さん」

もう一つ、色の違う封筒を机に乗せた。

「これは……?」

華取さんは眉を寄せる。

「俺の勝手な判断で検査にかけました。法医学見分を担当した大学のデータベースから、取得しました。窃盗行為で捕まっても構いません」

それだけの覚悟をもって、この情報を手にすることを決意した。

正義のためではない。たった一人、敵いたいと思った友人のために。

何かを察したのか、華取さんの顔が強張る。

「正直これは……これこそは、俺は隠しておくべきだと思っています」

「………」

華取さんは無言で封を開けた。

「二十五年前――神宮一家殺人事件の、唯一採取された容疑者のものと思われるDNAです」