「死なれたら困る。たぶん一回の研究じゃ収まんないから」
「お前こそ他人がサンプルじゃねえか。断る。お前にやるもんなんてない」
「じゃあ今後神宮がなんかDNA検査とかしたくなったら請け負う」
「公的な機関に頼むからいらん」
「……じゃあ無償で請けてやる」
「カネ取る気だったのかよお前は」
「……………………………研究者に背信する行為だが……研究結果偽造してやる……!」
「お前が背信行為したところで誰の益にもならねえよ。簡単に傷付く矜持(きょうじ)に興味ねえ」
「なら……問答無用でいただく……!」
「背信行為どころか単なる傷害行為じゃねえか。吹雪、署に行くついでにこいつ傷害・凶器準備集合・自殺教唆(きょうさ)で突き出してこよーぜ」
「色々付加されすぎだろ! 教唆してねえよ! お前死ぬ気なんてサラッサラないだろ!」
「わー! 待て琉奏! 早まるな! りゅうも! って、え? 集合ってもしかして俺らも含まれてんの? 凶器どこだよ!」
臨戦態勢に入った神宮と俺。慌てた雲居が割って入ってきた。春芽はいつもの調子を取り戻してくすくす笑っている。
そんな詮無い応酬をして、なんとかかんとかもらった神宮の検体だった。
ちなみに傷害ではないし自傷もさせていない。勿論。納得させて、もらったもの。
……愉快な過去もあったものだ。雲居の言うように顔の筋肉一つ動かすのも珍しかった神宮が、今では恋人にふにゃけたカオしてダダ甘い。
学校で見たあいつが未だに信じられんよ。
……しかし今、封筒の中が現実だった。
華取さんはそれを受け取り、開いた。見る間に華取さんの顔から色が消える。
「……残念ながら――と言うのが相応しいかわかりませんが、華取さんの依頼の結果は、それです」
「………確証は?」
「八十七パーセントです」
「……これを調べたのは、宮司くんだけかい?」
「はい。一人でやったために時間がかかりました」
すみません、と謝った。
華取さんは書類を伏せるように置いた。
「では、この検査結果は抹消してほしい」
――え――抹消――⁉
「っ、華取さん、それは――」