「お誕生日、おめでとう、流夜くん。大すきだよ」
俺の肩に手を載せて、もう一度、咲桜はプレゼントくれた。俺の好きな、華のような笑みと一緒に。
「……ありがとう、咲桜」
咲桜の大事な名前を、呼んだ。
ぐっすり、寝てしまった。むしろぐーすか寝ている咲桜だ。左腕に両腕を巻き付けている咲桜を見て、笑ってしまった。最初のときと全く同じ光景だ。
頬にかかる髪を払ってやる。絹のような黒髪。柔らかくて、触るのもすきだ。
「けどなあ……」
思わずぼやいてしまう。在義さんからの脅しがあったとはいえ、半ば流れに任せる気もあった。咲桜のヘンな解釈も聞いてこうなることはわかっていたけど。
「この状況で、よく」
安心して眠っている。
自分も咲桜に手を出さないでいられる。
……咲桜の絶対の安心の様子が見えるからだろうか。咲桜の希望を裏切りたくない、という思いはある。
「どうするかな……」
この前は布団まで運んでも起きなかったから、今日もそうしても大丈夫だろう。ここまで安全認定されたら手をどうのなんて些末(さまつ)なことと思えてしまう。
……大事にしたいんだ。
このままここにいようか。咲桜のぬくもりと、幸せを確かにした場所で。ソファで寝こけるの、流夜は日常だからいいけど……。
「……もう少し、見ててもいいかな……」
中学で陸上競技をやっていたからか、咲桜の肌は真っ白ではなく元気な色だ。柔らかい頬は愛らしい。
「……ずっと、愛しててもいいかな?」
ふにゃっと、咲桜の顔が動いた。応(いら)えのように。
「……うん」
来年も、その次も――。
この時間を、一緒に。
そっと、咲桜の左薬指にキスを落とした。