ふと、咲桜が置時計を見た。今日が終わる。咲桜の誕生日。
「……来年も、お祝いさせてな?」
咲桜の顎に指をかけて、少し上向かせる。まだ潤みのある瞳で咲桜は肯いた。
「あの、ね?」
「うん?」
「私も……来年、キスが、いいなあ、と思ったり思わなかったりするので忘れてください!」
咲桜はうわーうわーと熱気を払うようにぶんぶん頭を振っている。
「ん。約束。いくらでもあげるよ」
「いくらでも?」
「ああ。咲桜がほしい分よりもっとしたいくらいだけど?」
「……そうですか」
「そうですよ」
「じゃあ……たくさん、してほしいです」
「――――」
求められることの、嬉しさ。
少し乱暴な強さで咲桜の顔を引き寄せた。
優しさよりも熱さを感じさせる口づけ。最初は戸惑っているのがわかった。でもすぐに同じ熱を持つ。繰り返して。
「キス、してほしいんだ?」
咲桜がぽーっと意識がふわふわしているのをわかって、意地悪く訊く。
咲桜はふやけたような瞳で、こくりと肯いた。
「りゅーやくんにキスされるの、嬉しい、です。たくさん、ほしい」
「――――」
……咲桜の意識がまどろみに落ちかけている。少し焦ったけど、自分がそこまで咲桜の感情を動かせたことに優越感も感じる。
「そっか。じゃあ、たくさんあげる」
何度目かわからないくらいたくさんしているキスを、またする。
ほしいと言ってくれた。それが、俺がほしかった言葉。
咲桜がほしかった。だから、咲桜にも欲してほしかった。
十二時。カチリと針の音。すっと、咲桜が顔を引いた。にっこり、微笑んだ。